悪質なひき逃げの方が刑罰がなぜ軽いのか?

   ■ 道路交通法 第72条(交通事故の場合の措置)

交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。 この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、 その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、 警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び 負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、 当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。

   ■ 道路交通法 第117条(罰則)

車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2  前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

   ■ 刑法 第208条の2 危険運転致死傷罪
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。

2  人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

   ■ 刑法 第211条 業務上過失致死傷等
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

2  自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

赤線の条文が「自動車運転過失致死傷罪」である。

飲酒運転の発覚を恐れて、交通弱者を轢いてそのまま逃走(ひき逃げ)し、アルコールが抜けてから出頭したとする。
その時点では酒酔い運転又は酒気帯び運転で立件する事が困難となる。
よって、この運転手の刑罰は「道路交通法の救護義務違反」及び「自動車運転過失致死傷罪」の併合罪となる。
(併合罪は2つの罪のうち最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする。)
つまり、轢逃げが刑罰としては重いため、懲役10年以下の2分の1を足すと懲役15年以下となる。
轢逃げをせず、飲酒により正常な運転が困難であると立証されれば危険運転致死傷罪が適用されると懲役20年以下となる。
轢逃げの罰則が強化されたとはいえ、いまだ逃げ得という大きな問題が残されている。