危険運転致死傷罪での立証は難しい?

   ■ 刑法 第208条の2 危険運転致死傷罪
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。

2  人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

   ■ 刑法 第211条 業務上過失致死傷等
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

2  自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

赤線の条文が「自動車運転過失致死傷罪」である。

自動車の運転において、死傷事故を起こした場合は上記の二つの罰則規定が設けられているが、危険運転致死傷罪で立件し立証する事が難しいケースが多い。 危険運転致死傷罪で立証するためには以下の行為でなければならない。

酩酊運転致死傷罪(1項前段)・・アルコール(飲酒)または薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
「正常な運転が困難な状態」とは、道路や交通の状況に応じた運転操作を行うことが困難な状態のことです。
飲酒などにより、目が回った状態であったり、運動能力が低下してハンドルやブレーキがうまく操作できなかったり、判断能力が低下して距離感がつかめなかったりして、正常に運転できない状態のことを言います。
「アルコールの影響で正常な運転が困難」かどうかの認定方法としては、呼気検査により、呼気の中にどれだけのアルコールが検出されるか、直立・歩行検査でフラフラしていないかどうか、事故直後の言動でろれつが回らない、 目が充血している等の兆候があったか、蛇行運転をしているなどの事実があったか、本人や関係者の証言により、どの程度の飲酒をしていたか、事故前後の言動はどうだったか、などを総合して認定されます。
正常な運転が困難であったことについては、検察側が立証しなければなりません。そこで、飲酒運転により人身事故を起こしてしまった運転者は、飲酒の発覚をおそれ、逃走(ひき逃げ)をしてしまうケースが出てまいりました。 そして、後刻、あるいは後日逮捕されたとしても、すでにアルコールが抜けており、アルコールの影響により、「事故当時」正常な運転が困難であったことの立証が困難となってしまうのです。

制御困難運転致死傷罪(1項後段)・・進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難状態で自動車を走行させることです。
これは、具体的に「●●キロ」と決まっているのではなく、具体的な道路の道幅や、カーブ、曲がり角などの状況によって変わってきますし、車の性能や貨物の積載状況によっても変わってきます。

未熟運転致死傷罪(1項後段)・・進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
「進行を制御する技能を有しない」とは、ハンドルやブレーキ等を捜査する初歩的な技能すら有しない場合が想定されています。
運転免許の有無は関係ありません。 たとえ、運転免許がなくても、普段無免許を繰り返しており、運転技術がある場合には、この要件には当てはまりません。

信号無視運転致死傷罪(2項後段)・・赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
「赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度」 「これに相当する信号」とは、赤信号と同様の効力を持つ信号のことで、警察官の手信号のようなものを指します。 「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、やはり20〜30キロ程度出ていれば、要件に当たるでしょう。 その程度の速度でも、赤信号を無視して交差点に侵入されば、重大な事故が発生しやすいためです。

妨害運転致死傷罪(2項前段)・・人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度」
「通行を妨害する目的」というのは、「相手を走行させない」という意味ではなく、逆に、相手に自車との衝突を避けるための回避行為をとらせるなど、相手の安全運転を妨害する目的を言います。 相手が自車との衝突を避けるため急な回避行為をするときは、重大な事故が発生しやすいことに着目したものです。 「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、自車が相手方と衝突すると、重大な事故になりそうな速度、あるいはそのような重大な事故を回避することが困難な速度を言います。 20〜30キロ程度出ていれば、状況によってはこの要件に当たると解釈されています。

また、「危険運転致死傷」罪は、「故意に自動車の危険運転をし、その結果として人を死傷させる」ことを内容とする罪である事が立証を難しくさせている。